出来損ないと天才の話。
「この出来損ないが!」
「情けない!」
「お前なんか産まなければ
よかった!」
そう言われて育った。
親が死ぬまで、そう言われ続けた。
その呪いは、まだ解けない。
「あなたは天才です」
「自分自身を信じてください」
「それができないなら、
私を信じてください」
大人になってから、
ライブで歌を聴いてくれた人が、
そう言ってくれた。
嘘つきだと思った。
「出来損ない」だと30年間丁寧に
脳に刷り込まれて、
それを信じて生きてきたからだった。
でも、それはたぶん間違いだった。
私は、たぶん出来損ないじゃない。
親が死んで、
監視から逃れられた今も、
こうしてちゃんと生きてる。
子供の頃の夢を叶えて、
ちゃんと生きてる。
あんなにも
「お前にできるはずがない」
と言われ続けた、
憧れの職業に就いている。
それを認めてくれる人も、
応援してくれる人もできた。
自分の家族もできた。
今は、呪いの中で「自分は天才だ」
と唱えながら毎日を過ごしている。
死ぬ前に、呪いが解けたらいいな。
そして、私の大切な人には、
同じ思いをさせないように
生きていきたいな。