会社員の頃の話
「辞めるくせに、有給もらえて
当たり前みたいな顔しないでくれる?」
社長夫人である経理の女性から、
ものすごい形相で怒鳴られた。
その声は小さなオフィス中に響いた。
もちろんそんな顔はしていない。
むしろどんな顔がそういう顔なのか
教えてほしいくらいだ。
他の社員は
「うわ……かわいそうに……」
という顔をするだけで、
火の粉がかからないように、
こちらに関わらないようにしている。
席に戻ってパソコンを開くと
社内メッセージが届いていた。
「みんなに無視される気分はどう?」
……社長からだった。
その画面のスクリーンショットは、
何かあったときのために今もとってある。
その時、私は会社員で、
会社を辞めて独立することが
決まっていた。
社長に退職願を提出した途端、
風当たりが強くなったのだ。
経営状況があまりよくなかったからか、
社長夫人の怒鳴り声は
毎日オフィスに響き渡る。
そして、その矛先は、
いつ自分に向くかわからない。
その会社に所属していた約2年で、
自尊心は枯れ、
「私は何もできない人間なんだ」
「生きていても仕方がないんだ」
という考えが絶対的なものになっていた。
オフィスに入ろうとすると
動悸が早くなり
普通でいられなくなる日は、
会社近くの公園で
仕事していたこともあった。
そして、
細かな不正をしている会社だった
ということも辛かった。
例えば、私をはじめ
「正社員」として働いていた社員は、
ある日突然、
「国からの助成金もらいたいから
契約社員だったことにして」と言われ、
それまでやってきた通常の業務を
「研修ってことにして」と
強要されたりと、
もうめちゃくちゃだった。
断れば怒鳴られる。
残念なことに、
その時はもうすでに断ることができる
精神状態ではなかった。
これが退職のいいきっかけになった。
そして、退職するという理由で
不正に加担せずに済んだ。
労働基準局に相談して、
なんとか有給を取得し、
心がボロボロになりながらも
退職できた。
会社の外の世界は、景色が全く違った。
怒号や不正にまみれた
ドロドロした世界ではなかった。
「生きていてもいいんだ」と思えた。
自尊心を取り戻して
自分の足で踏み出すまで、
4か月かかったけれど、
個人事業主として、
好きなことを仕事にできた。
私は「何もできない人間」じゃなかった。
会社員時代にしか
経験できなかったことや、
得られなかった知識はある。
感謝することは沢山だ。
でも、退職して本当に良かった。
辞めてから2年経つけど、
いい会社になってるといいな。
今、会社や学校などで
不当な扱いをされている方、
世界はそこだけじゃないです。
世界は広くて面白くて多様です。
もし、嫌な思いをしていたら、
外に出てみるのもありですよ。